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仙台が誇るHIPHOPアーティスト
GAGLEが語る、3人と街のリアル。

「仙台のアーティストといえば?」もし、こう聞かれたら、彼らの名前を挙げる人も多いだろう。1996年のデビュー以来、仙台をベースに国内外で活動を展開するHIPHOPグループ・GAGLE。1月12日にリリースされた約4年ぶり6枚目となるニューアルバム『VANTA BLACK』は<iTunes ヒップホップ/ラップ部門アルバムランキング>、<Amazon ヒップホップ新着ランキング>で1位を獲得。まさに日本のHIPHOPシーンを代表する存在であり、長年にわたり年齢や国籍を超えた多くのオーディエンスに支持され続けている3人に話を聞いた。街のこと、音楽のこと、そして彼らのこれまでとこれからについて。

MCのHUNGER(左)、DJ Mitsu the Beats(中央)、DJ Mu-R(右)

GAGLE(ガグル)

DJ Mitsu the Beats(ミツ・ザ・ビーツ)、HUNGER(ハンガー)、DJ Mu-R(ミューラー)の3人からなるHIP HOPアーティスト。仙台在住。1996年に結成。2001年「BUST THE FACTS」でデビュー。その後、日本語HIP HOPクラシックスとして知られる「雪ノ革命」「屍を越えて」「うぶこえ」を生み出し、時代とリンクしながらも譲らない曲制作と評価が高いライブパフォーマンスを武器に着実にファンを獲得している。

変わらない“地元”仙台への想い

まず3人に、それぞれの出身地を聞いた。これほど仙台の音楽シーンを牽引しているアーティストなので、筆者は勝手に“仙台出身”だと思い込んでいたが、取材の下調べを行っているとメディアによって出身地のプロフィールが異なっていたからだ。

Mu-Rさんは「生まれも育ちも仙台」。

実の兄弟であるMitsuさんとHUNGERさんは北海道で生まれ、転勤族である父親に伴い、道内をはじめ、新潟や岩手などを回ったという。そして大学入学をきっかけにまず兄・Mitsuさんが、その後、弟・HUNGERさんが仙台へ。

 

HUNGER「僕らは北海道で生まれたけど、親父が名取出身で。親戚はみんな宮城の人だったんですよね。そういう意味ではルーツはこっちにあって」

DJ Mitsu the Beats「北海道にいる時、本籍に“名取”って書いてあるのをみて、どこだろう?って思ってたんですけど(笑)、結果的にここでずっと活動してるんだから不思議ですね」

GAGLEの代表作のひとつ『雪ノ革命』はHUNGERさんが仙台で活動していく決意を言葉にした名曲

2004年には大手レコード会社からメジャーデビューも果たしたGAGLE。しかし、東京へ進出することなく、仙台に活動拠点を置き続けた。その理由はいたってシンプル。3人とも口を揃えて「居心地がいいから」だという。

 

HUNGER「都市機能も、海も山も身近にある。仙台を拠点にする作家や芸術家が多いっていうのもわかる気がしますね」

DJ Mitsu the Beats「これからツアーもはじまるけど、移動も特に不自由しないし。落ち着いて制作できる環境が整っているんですよね」

曲作りは主に行きつけの喫茶店で行うというDJ Mitsu the Beatsさん

DJ Mu-Rさんは「仙台はもっとクリエイティブな街になれる」と語った

しかし、音楽をやっていく上で「一概には言えないけど、東京の方がチャンスが多いのは間違いない」とHUNGERさん。

それでも仙台をベースに活動していく決意を歌った名曲が、2002年に発表された『雪ノ革命』だ。

よく言われるよ 勝負しないか東京で トップとSHOWしない? 同じ土俵で そこでSTOPするな来い その度量で 共に楽しもうぜ ALL DAY 有り難いが まだ遊び足りないんだここで ここにこれだけかけてきたんだ ダメ元で だから俺らは事は進めるよ 他でないココで FRIENDSと共にその元で まずはこの音で ― GAGLE『雪ノ革命』より

 

HUNGER「半ば決意表明のような意味合いでリリックは書きました。ここでやっていく決意を、これを書くことで固めたというか。今も、あの頃と思ってることは全然変わらないですね」

DJ Mu-R「今でも、雪ノ革命をライブでやりますけど、気持ち込めてやれてるっていうのはそういうことですよね」

3人は生活者として、表現者として、変貌する仙台の街と歩み続けてきた。

 

3.11が彼らと音楽に与えた影響

仙台、東北で活動してきたアーティストとして、東日本大震災はGAGLEにどんな影響を与えたのだろうか。

地震発生直後は何をすべきか全く考えられなかったという3人だが、すぐに行動を起こした。

震災の一週間後には“人が集える空間”としてライブを復活したという

DJ Mu-R「自然にそうなったのか、意識的にやったのかわからないけど、一週間後にはDJ活動を再開して。もちろん、いろんな意見があったけど、人が集える空間が必要じゃないかと思ったんですよね。本当にそこで再会できて、喜んでた人たちもいたし…」

HUNGER「震災によって音楽をやめた人、クラブに来なくなった人も実際にいます。ただ、あのときは“やれることを、早くやらないと”という気持ちで一杯でしたね。ここで遅れをとったら、なかなか戻れない気がして。実際は、あの大きな出来事があって、音楽に多様性が出ましたね」

HUNGERさんは、毎年、被災地で多くのアーティストとともに復興ライブを行っている

ふと、Mitsuさんが二人の話を聞きながら「そういえば意識してなかったけど…」と口を開いた。

自身でも無意識のうちに防災への意識付けを行っていたというDJ Mitsu the Beatsさん

奥さんの実家である高知へ訪れた際、親戚やクラブのお客さんに気付かないうちに“南海トラフ地震”への警戒を呼びかけていたという。

 

DJ Mitsu the Beats「もちろん、みんな東北で凄い地震があったことは知っているんだけど、自分事としてはあまり実感がない感じがして。“おばあちゃんは誰が担ぐか”“避難経路はどこか確認して”と自然に言ってますね。元々、社交的じゃないし、そんな他人に興味ないんですけど(笑)。最近は地元の人から防災の話も聞くし、海岸のコンビニに救命艇が配備されたり、整備は進んできてるみたいですね」

その後、GAGLEは主宰レーベル・松竹梅レコーズが企画した復興支援イベント「うぶごえプロジェクト」や沿岸地域での復興ボランティアなど、実際に被災地へ足を運び、アクションを起こし続けている。そして震災を経験した者だからこそ語れるメッセージで、被災地の今を全国へ発信している。

※現在、「うぶごえプロジェクト」はGAGLEの手を離れ、その意志を受け継ぐ人々によって管理・運営されている。

取材は仙台市内のレコードショップ「MAILMAN」で行われた

 

衰えることのない、新たな表現への意欲

前作のアルバム「VG+」から約4年。ユニットとして、個人として、ライブや楽曲制作、サイド・プロジェクトなど、精力的な日々を過ごしてきた3人。この時間が、彼らにもたらしたものについて聞いた。

HUNGER「個人的には地域、音楽といったジャンルを超えて、いろんな人と繋がることができましたね。刺激をもらったり、いろんなものを吸収できた。よく“リリック・オブ・ライフ”と言うんですけど、そういった経験の蓄積が、自然と言葉として出てくるものだし。このまえ開いたアルバムのリスニングパーティーも、人のつながりから生まれたアプローチです」

DJ Mitsu the Beats「このまえ、のだやさん(のだや仙台店)でアルバムの曲を高級オーディオで聴いてもらうイベントを開催して。ああいう試みは日本で初めてじゃないかな」

メディアや関係者、一般公募で集まった人々と“聴く”ことを共有した

DJ Mu-R「実はHUNGERさんからそのアイデアを聞いた時、反対だったんですよ。そんな超高額のオーディオで聴いて、どうなるのかリアリティを感じられなくて。ただ結果的には、やってよかった。HUNGERさんは自分たちがマスタリング・スタジオで味わってる空気感を体感してもらいたかったと思うんだけど、集まってくれた人の生の声や反応を見て、ちゃんと伝わってることが感じられました」

HUNGER「“ライブみたいな充足感があった”という声もあったよね。それに“聴く”ということに集中する時間をつくってみたかったんです。本来、科学技術って、人間の負担を減らして、自由な時間をつくるために進化していると思うんですけど、最近、逆にやることは多くなっていってるんじゃないかっていう実感があって。プレッシャーはあったけど、おもしろい試みになりましたね」

 

GAGLEの現在地と行き先

社会のムードを捉え、新しい音楽表現に挑みながらも、ずっと失われない“GAGLEらしさ”。最近の活動について聞いた時、その自然体のスタンスこそが唯一無二のオリジナリティを放つ要因ではないかと感じた。

 

DJ Mitsu the Beats「ずっと仙台で活動してきて、最近、楽天(イーグルス)のスタジアムの音楽や89ersのオフィシャルソングとかに使われるようになって」

DJ Mu-R「デビューして15年たって、やっと使われるのがGAGLEらしいですよね(笑)」

HUNGER「確かにもっとガツガツして、その時々のブームに合わせていけば、いろんな機会があったのかもしれないけど。あまりうちらはそういう感じでもないし、頃合いを見て、自然な流れでいろいろやっていければいいかな」

強引にスタイルを曲げないスタンスが、現在のポジションを築き上げた

これからやりたいことを聞くと、Mu-Rさんが「僕から話していいですか?」と話し始めた。

 

DJ Mu-R「仙台はDJやラッパーに限らず、料理屋や服屋なんかでもレベルの高い人が多い。そういった人たちが手を取りあうような企画があれば、もっとクリエイティブな街になれると思う」

HUNGER「みんな地元を盛り上げたいという気持ちはもっているからね。僕はジャンル関係なしに仙台にいるミュージシャンが一堂に会する日をつくりたい。たくさんいいアーティストはいるし、今回のアルバムに参加してもらった菅原君もそう。おもしろい化学反応が起こるんじゃないかな」

DJ Mitsu the Beatsさんは、店内のレコードをチェックし即購入

DJ Mitsu the Beats「これからも山あり谷ありだと思うけど、ひたすら音楽をつくり続けたいですね。毎日一曲以上つくらないと、イライラするんですよね。本当は今も作りたいぐらい(笑)」

HUNGER「完全にビートメイク依存症だね(笑)」

DJ Mitsu the Beats「喫茶店や近くの温泉に行って、浸かりながら考えたりするんですよ(笑)。でもHUNGERも、いつもメモ取ってるでしょ?」

HUNGER「これは職業病かもしれないけど、昔から気になった言葉はメモしてるんですよ。映画館でもメモ取ってるから、周りから見たら完全な映画評論家だと思う(笑)」

海外でも高い評価を受けるDJの2人は、取材後も新たな音源探し

時に冗談を交えながら、丁寧に本音で話を聞かせてくれたメンバー。最後にグループの今後について聞いた。

 

DJ Mitsu the Beats「グループとしては、もっと作品を出すスピードを上げたいですね。ひとつのアルバムに4年かけるってやばい(笑)」

DJ Mu-R「今回のアルバムに収まりきらなかった曲もあるし、新しいアイディアもあるし、いけるんじゃないかな」

HUNGER「それ前のアルバム出したときも言ってたと思うよ(笑)。ただ、もちろん時間も大切なんですけど、自分たちで表現を磨きながら、音楽をアップデートして、新鮮な曲を作り続けたいですね。次のアルバムは2年後が目標…いや、きついか(笑)」

約1時間半に及んだ取材にも懇切丁寧に応じてくれたGAGLEのメンバー

これからアルバムを引っさげた全国ツアーも予定しているというGAGLE。2月には仙台市内の2ヶ所でイン・ストア・イベントが予定されている。それぞれの詳細や彼らの最新の動向についてはOFFICIAL WEBSITEで確認してほしい。

 

GAGLE OFFICIAL WEBSITE

http://gagle-official.com

 
イン・ストア・イベント

<HMV仙台EBeanS>

開催日:2月4日(日)

開始:18:00〜

内容:ミニライブ&サイン会

 

<タワーレコード仙台パルコ店>

開催日:2月18日(日)

開始:15:30〜

内容:ミニライブ&サイン会

 

 
 
 

 

GAGLE/VANTA BLACK(発売中)

Track List :

1.Vanta Black

2.Grand Gainers

3.適者生存

4.Bohemian Style

5.和背負い feat. KGE THE SHADOWMEN & 鎮座DOPENESS

6.小こい円盤 feat. 菅原信介

7.うつろぎ

8.Black Rose

9.?!!Chaos!!?

10.日日Living feat. Mitsuyoshi Nabekawa (ATATA)

11.Flow

12.Always