奥会津にオープンした歴史×文化×アートの
ゲストハウス「ソコカシコ」のこと

 

「土に根をおろし、風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春をうたおう」

宮崎駿監督の名作『天空の城ラピュタ』で、人智を超えた技術を手に、世界を支配しようとするムスカに対し、ヒロインのシータが故郷に伝わる言い伝えを説く場面。

何度聞いても(観ても)自然の摂理と人の営みについての芯を捉えた素晴らしいセリフです。

そしてこの言葉を聞くたびに、思い浮かぶのが三島町のこと。

 

2階の客室からは只見線の踏切が見える

広い会津地方の中でもとりわけ山深い人口1500人に満たない小さな町では、今なお日本古来の狩猟文化や手仕事が活き、人々は山の恵みを享受して暮らしています。

 

アートと土地の文化が融合したリノベーション

今年、この町に1軒のゲストハウスが誕生しました。

屋号は「ソコカシコ」。

昔の家らしく広い土間のエントランス

築80年ほどの2階建ての古民家をリノベーションし、宿泊施設としてはもちろん、週末の夜は居酒屋営業で賑わっています。

この地域の魅力を訥々と語るオーナーの三澤真也さん

名前の由来を聞くと、「自給自足の暮らし、昔からの知恵、そういったものが“そこかしこ”にちりばめられているこの町の豊かさを大切にしたいとの思いから名付けました」とオーナーの三澤真也さん。

洗面所には使い古した鍋とお釜
伝統的な編み組細工で照明をアレンジ
板張りの心地よいリビング。そしてふすまの存在感

なるほど、室内を見回すと町の伝統工芸品「編み組細工」を傘代わりにした照明、蓑を漉きこんだふすまなど、地域の文化がそれとなく溶け込んでいるのがわかります。近年、各地の古民家をゲストハウスにする動きは活発化していますが、それにしても随分と手の込んだ内装。改修はどのように進んだのでしょうか。

 

「実はこの建物自体が、僕が3年間関わってた『森のはこ舟アートプロジェクト』の中の“縄文採集型・古民家リノベーション”というプログラムの成果でもあるのです。このゲストハウスがある場所は、「荒屋敷遺跡」という縄文遺跡の真上。漆器や編み組細工が出土する国内でも珍しい遺跡だそうです。そういった背景からリノベーションのテーマを縄文人の生活の基本でもある“狩猟採集”の採集としました。

壁土は山から採ってきた素材、床材は近所の解体予定の空き家からもらってきたもの。ほかにも、洗面所のシンクは近所の蔵から出てきた鍋を使ったり、ゴミ箱は同じく蔵にあった木桶ですね。ふすまの紙漉きや壁の漆喰塗りはアーティストと一緒にワークショップ形式で行いました。もともとこの地にあった文化、時代の流れとともに使われなくなった技を復活させるという意味あいもあります」

リノベーションの様子

 

何気ない調度品ひとつひとつに物語があるだけでなく、建物自体がアートそのものとは恐れ入りました。作品の中に泊まる、滞在する、そんな特別な体験ができるのは旅の大きな醍醐味でもあります。

今後は訪れた人のためにアクティビティも準備していきたいという三澤さん。

客室の様子。収容人数は男女別の2間で計10人ほど

「決して大げさなものではなく、薪割りや編み組細工体験など、三島に来たからこその体験をしてほしいなと思っています」

 

全てを受け入れ「自然」と生きるということ

そもそも三澤さんがゲストハウスへの思いを強くしたことの背景には、三島町の現状に対する危機感があったそう。

「三島は福島県の中でも過疎高齢化が進んでいる地域。町の要望で、地域おこし協力隊の若者たちが何人か来てくれていますが、地元の人たちと交流するようなスペースは意外となかったのです。最初はそういう誰もが気軽に集まれるコミュニティスペースにと思っていましたが、どうせなら夜お酒を飲んで話したいよね、ということで居酒屋も始めました。町の人も結構いらっしゃいますよ。みんなバンバン飲むから大変です(笑)」

調理担当も三澤さん。地物の野菜を使った多国籍なメニューが並ぶ

 

三澤さんは長野県諏訪市出身。美術大学を卒業後、世界各国を旅したのち、飛騨高山で木工修行をしました。三島町へもその縁で移住。町の施設で木工の仕事をするうちに、地域への興味が湧き、まちづくりのNPOに参加。その一環でアートプロジェクトに携わりました。現在は移住生活7年目。

「こないだ、蓑を着て歩いている人を見かけたんです! いや〜カルチャーショックでした(笑)」

この町での暮らしには何年経っても新しい刺激が満ちていると言います。そんな三澤さんが三島町に惹かれる理由はほかにも。それは、かつての旅の記憶と繋がっていました。

「昔から違和感があったんです。日本にいると、食べものができる背景、ゴミの行く先、そういうことが隠されていますよね。でも、インドに行くと30分おきに山羊の頭を鉈で切り落とす儀式をしてたり、そこらじゅうゴミだらけ。それを見たとき、むき出しの命のあり方を知りました。三島には今も狩猟文化があって、冬の猟期には“熊ぶち”をするんです。冬眠している穴をまわって、中にいる熊を棒でつついて怒って出てきたところを鉄砲で仕留めるんですけど、村に降りると自然とみんながマイナイフを持って集まってきてその場でさばき始めるんですよね。その後は酒を持ち寄って鍋を囲んだり。そういうことを経験して、アジアの国の風景と似たものを感じました。三島に惹かれるのも、そういうラディカルさへの憧れがあるのかもしれません」

 

“熊ぶち”を終えて村で肉をさばく

 

不便で厳しい山での生活。そこでは、ただ命だけが脈々と息づき、「人が自然の一部のように暮らしている」と、三澤さんは言います。

「集落のおじいさんなんかと話すと、そもそもの人生の価値観というか、ゴールの設定の仕方が全く違うんです。何かを成すとか豊かになるとか、そういうことではなく、ただ生きているだけで全てが事足りているというか。そういう暮らしは、今を生きる僕らのヒントになると思っています」

お客さんとカウンターで語らう三澤さん

買い物もコミュニケーションも何もかもがネットで済む現代。テクノロジーに溺れ、自然への畏怖を忘れた私たちは大きな災害に遭いました。自然と生きるということは、自然と対峙すること。負けないように足を踏ん張って、立ち続けること。三島町に流れる空気にはそんな決意が内包されているようにも感じます。

そしてそんな普遍の営みに気づかせてくれる場所として、「ソコカシコ」はこれからきっと多くの旅人を迎えいれていくことでしょう。

冒頭のシータのセリフはこのように続きます。

「どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんのかわいそうなロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ」

夕暮れ時の「ソコカシコ」に優しい光が灯り、旅人を迎える
ゲストハウス ソコカシコ 
969-7512 福島県大沼郡三島町桑原荒屋敷1302
090-3345-3043
素泊まり:3,800円
朝食食材費込み:4,300円
夕・朝食食材費込み:5,300円
※冬季暖房費+500円
(金・土曜日居酒屋営業あり 17:00〜22:00)

[みちのライター] 渡部あきこ

福島県出身のフリー編集者/ライター、利酒師。福島のお酒が好きすぎて数年前にUターン。趣味は居酒屋探訪です。カルチャー全般から旅、食、伝統文化まで幅広く執筆中。お仕事のご依頼はこちらまで。akiko.nabe@gmail.com