描くことを楽しむ。
感じたことを共有する。
自由を愛するデッサン会。

 

「塩竈で”珈琲とデッサン会”があるんだけど、興味あったら行ってみない?」

 絵を描きたい、描いてみたいと思う人たちが集まり、コーヒーを飲みながら楽しくデッサンすることをコンセプトにしているという「珈琲とデッサン会」。
 声をかけられたときに咄嗟に浮かんだのは、美大・芸大出身の造形家やイラストレーター、画家たちがベレー帽をかぶり、自前の画材を手に時折コーヒーカップを傾けながら、イーゼルを前にして対象を写生する――そんなイメージ。あるいは現役学生がキャンパスと向かい合っている姿。いずれにせよハードルが高い。
 確かに絵画鑑賞は好きだけど、絵は中学の美術の授業以来ほとんど描いたことがない。そんな私でも描けるのだろうかと一抹の不安を胸に、デッサン会当日の12月9日、塩竈の地に降り立ちました。

 

とにかく楽しく、自由にデッサン

 JR仙石線本塩釜駅から歩いて約10分。塩竈の町並みを一望する小高い丘の上に建つ塩竈市杉村惇美術館が今回の会場です。
 レトロな木枠の硝子扉に広い玄関ホール、映画のセットのようなお洒落なランプなどまるでタイムスリップしたかのような空間に見惚れていると、目が覚めるような赤いニットのセーターがよく似合う女性が出迎えてくれました。
 「珈琲とデッサン会」の主催者である白鳥まゆさんと、石山せり子さんです。

 イベントの内容は10分の間にモデルを見ながら絵を描くというとてもシンプルなもの。間にコーヒーブレイクをはさみながら、ポーズや衣装を変えて7〜8回デッサンを繰り返し、最後は全員の作品を並べて小さな鑑賞会をします。白鳥さんがかつて通っていた美術学校「セツ・モードセミナー 」のデッサン授業をモデルに、より自由に、誰もが楽しく参加できるよう企画されています。

※セツ・モードセミナー
長沢節が創設した東京の美術学校で、数多くのクリエイターを輩出してきた。生誕100年にあたる2017年4月に閉校。

 

白鳥さん(右)と石山さん(左)。お揃いの赤いニットとベレー帽は、特に示し合わせたわけではなくまったくの偶然だったそう

白鳥「きっかけは東京から仙台に戻ってきたときのことでした。仙台で絵が描ける場所を探したのですが、絵画教室のようなところはあってもセツ・モードセミナーのように自由に楽しんで描ける場所というのはなかなか見付けられませんでした。そこで友人の石山さんに相談すると、”自分でやってみるのがいいんじゃない?”とアドバイスをもらいました」

石山「知り合いにカフェのオーナーがいたので白鳥さんの提案を話してみました。するとお店を会場にイベントをやってもいいとの声がけをいただき、2014年11月にはじめてのデッサン会が実現しました」

 人は集まるのか。そもそもデッサンがイベントとして成り立つのか……。
 そんな不安も杞憂に終わり、満員御礼で初回のイベントをやり遂げた白鳥さん石山さん。毎回少しずつテーマを変えながら、4年にわたってデッサン会を実施しています。

 

鉛筆とスケッチブックがあれば誰でも参加OK!

 

気分はまるで洋画家・杉村惇

 今回は、塩竈市にゆかりのある画家・杉村惇の生誕110年を記念した特別企画展「生誕110年 杉村惇作品展―塩竈時代を中心に」の関連企画として実現しました。

 

館内にある美しいアーチ型の大講堂には25名の参加者が集まりました

 最初のテーマは杉村氏の代表作の一つ《婦人像》。1933(昭和8)年の第1回東北美術展(現・河北美術展)で河北賞を受賞したことでも知られる作品です。杉村氏らしい重厚感のあるタッチで描かれている着物の女性に扮し、リラックスした様子で椅子に腰掛けるモデルを、参加者は自分が「ここ!」と思ったアングルを見付けて描いていきます。

 

和装モデルは「珈琲とデッサン会」で初めての試みでした
モデルのヘアメイクを担当したのは美容師の白鳥ゆいさん

「ハコのない美容師」白鳥ゆいさん

 今回モデルのヘアメイクと着付けを担当した白鳥ゆいさんは、特定の美容室には入らず、場所や時間をお客さんに決めてもらって出張カットをするフリーの美容師です。主催の白鳥さんとは姉妹であり、これまでのデッサン会でもたびたび駆けつけて、イベントの成功を支えてきました。

 

石山「10分間集中して何かに取り組んだあと、コーヒーを飲みながらホッとひと息つくとまるでスポーツの後のような心地良い疲れを感じることができるんです。短時間集中して何かをするというのは日常生活にはあまりないことなので、そうしたところも楽しんでもらいたいですね」

 主催の2人もひとりの参加者としてスケッチブックを手にモデルと向き合います。

 和装モデルを3パターン描いた後はブレイクタイムを挟み、今度は参加者が実際にモデルを体験します。参加者の一人は「デッサンに挑戦しているときの10分はあっという間なのに、ポーズをとっている間の10分はとても長く感じました」と、滅多にない体験に声を弾ませていました。

 

休憩時間には館内にある談話室のいれたてコーヒーとお菓子で談笑。コミュニケーションの場にもなっています

 

 その後は再びモデルデッサンに挑戦。杉村氏が静物画を描くときに使用した舵や楽器などのモチーフとともに、モデルが美しく見える角度を探して描き続けます。

 

後半は衣装替えしたモデルをデッサン。傍らには杉村氏の作品中に出てくるモチーフが

違って当たり前。臆せず来てほしい

 大人になるとどうしても「きれいに描かなくちゃ」「上手に描かなくちゃ」と思いがちです。そして上手く描けないことは自分が一番良く分かっているから、どうしても「絵を描かない」という選択をしてしまいがち。しかし白鳥さんは、本来絵を描くのに「こうしなければならない」というルールはないと強調します。そこにはセツで学んだ自由な雰囲気で描ける楽しさを参加者にも感じてもらいたい、という気持ちが込められています。

白鳥「同じモデルを見ても、感じるものは人それぞれ違います。描いたデッサンもひとつとして同じものはありません。初めてデッサンを描く人の線には、描き慣れた人には出せない味があったりします。最後の鑑賞会では、みんな違うから良いし、みんな違うから楽しいんだということを感じてもらえたらうれしいです」

 

鑑賞会では「着物の直線が難しい」や「モデルのヘアメイクや衣装が変わると印象がガラッと変わってびっくりした」などの声が聞かれました

 

 これまで開催されてきたデッサン会では、下は小学生から上は80代まで幅広い年齢層の方が参加し、自分の感性を鉛筆に載せ思い思いの絵を描き上げてきました。初めて参加するという方が毎回半数近くを占め、中には描くことの楽しさに魅了されリピーターとなる方も多いそうです。

 

普段はまったく絵を描かないみちのスタッフもデッサンに挑戦。とても楽しく、新鮮な時間を過ごしました!

 

 次回は未定ですが、facebookとInstagramにて情報を発信しているそうなのでぜひチェックしてみてください。

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塩竈市杉村惇美術館

今回デッサン会の会場となった塩竈市杉村惇美術館は、塩竈ゆかりの洋画家・杉村惇氏の作品を常設展示しています。町の喧騒から離れた静かな丘の上に佇むレトロな建物は公民館としての機能も兼ね備えた市民の文化交流施設でもあり、さまざまなイベントが開催されています。

所 塩竈市本町8-1
時 9:00〜21:00(公民館)、10:00〜17:00(美術館)
休 月曜(祝日・振替休日の場合はその翌日)、年末年始
交 本塩釜駅から徒歩約10分、塩釜駅から徒歩約20分
URL  http://sugimurajun.shiomo.jp/