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「水素エネルギーシステム」によって
新しい社会のあり方を描きたい。

東北大学 金属材料研究所
東京大学 先端科学技術研究センター  特任教授 河野龍興

 地球全体が二酸化炭素(CO2)などの「温室効果ガス」に過剰におおわれることによって生じる「地球温暖化」。この地球温暖化を防ぐには、主な原因とされるCO2を排出する化石燃料の使用を大きく減らしていくことが必要と言われている。

 いま注目されているのが「水素」だ。水素は、利用の際にCO2を排出しないことから、クリーンな次世代エネルギーの切り札の一つとして、各分野で研究が進められている。

 水素によって今後どのような社会を描くことができるのか?

「水素エネルギーシステム」の確立に向け研究を進める東北大学金属材料研究所/産学連携先端材料研究開発センター及び東京大学先端科学技術研究センターの河野龍興特任教授に、これからの展望をお聞きした。

コロナ禍で見えてきた
「根本から変えないとCO2削減はできない」

 「現在の新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、全世界で経済活動や人の移動が大きく制限される事態になっています。社会の動きが止まるとCO2の削減が進むと言われてきました。しかし、単に経済活動を止めただけでは、CO2の削減量は大きく変わらないというデータが国際エネルギー機関(IEA)から示されました。」と話す河野教授。世界各地で実施されたなロックダウン(都市封鎖)によっても、大気中のCO2排出量は大きく減らなかったという。

 2015年12月にパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、温室効果ガス排出削減の国際的な枠組みを決める「パリ協定」が採択された。このパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」が示された。

 「この目標を達成するために、わが国では2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指すとしています。しかし、今までのやり方では、目標達成は非常に難しいということが明らかになったわけです。」

 今までのやり方ではなく、根本からエネルギーの構成を変えていくべきだという河野教授。期待されるのが「再生可能エネルギー」だ。

 「太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使った発電は、化石燃料からの脱却につながる一方で、天候によって発電量が左右されてしまい、安定した電力の供給が難しいという問題もあります。ではどうするか? そこで、一年を通して一定の電気を供給できるエネルギー貯蔵技術が注目されているのです。」

キーとなるのは「エネルギー貯蔵技術」
クリーンな水素の貯蔵に注目

 「普段私たちが使っている電気は、大量の貯蔵が難しいですね。電気エネルギーとは、電子などが『移動』することによるエネルギーです。移動しているので、そのまま閉じ込めることはできないのです。しかし、エネルギーを他の形に変えて貯蔵すれば、必要なときに再び電気エネルギーとして取り出すことが可能です。」と語る河野教授。

 電気を化学エネルギーとして蓄積する蓄電池や、揚水・圧縮空気・フライホイール等の力学的エネルギー、温水・蒸気・蓄熱媒体等の熱エネルギー、電気二重層キャパシタ・超電導コイル等の電気エネルギーとして蓄積するなど、いろいろな方法がある。

 その中でも、特に注目されているのが「水素」だ。他の蓄積手段と比較すると大量のエネルギーを蓄積でき、しかも軽量で移動・輸送も比較的容易にすることができる。

 そして、何よりも水素のメリットとしてあげられるのが、燃料電池等で発電(電気に変換)した場合に水しか発生しないクリーンなエネルギーであることだ。

 「小・中学生の頃、理科の実験でやった「水の電気分解」を思い出してください。水(H2O)に電流を流すことで、水素(H2)と酸素(O2)に分解。水素を作り出すことができましたね。この『水の電気分解』の逆の原理で水素と酸素から電気を作るのが『燃料電池』の仕組みです。水素と空気中の酸素が化学反応することで電気が作られるのですが、この方法だどCO2を排出しないのです。」

 水素エネルギーは、利活用の範囲が広く、すでに実用化されている家庭用燃料電池(エネファーム)、燃料電池自動車(FCV)や燃料電池バス・燃料電池フォークリフトに加え、将来的には航空機や鉄道車両などの輸送分野、水素発電などでも活用されることが期待されている「クリーンエネルギーの本命」だ。

より多くの水素を吸蔵できる
新規La-Mg-Ni系水素吸蔵合金を発見

 水素の貯蔵をもっと効率化すれば、より環境にやさしいエネルギーシステムがつくれる。河野教授の研究のひとつのテーマが、この水素の効率的な貯蔵方法の開発だ。過去に、電機メーカーの研究所で、水素の製造・貯蔵の研究を行ってきたが、その中心となるのが「水素吸蔵合金」というもの。金属の中には水素を取り込む性質を持つものが複数あることが知られているが、水素吸蔵合金とは、このような性質を合金化によって最適化し、水素を吸わせて出させることを目的として開発された合金のことだ。この水素吸蔵合金により、充放電が可能となったため、充電量が格段に進化したニッケル水素電池の発明につながった。

 「ニッケル水素電池に使われている水素吸蔵合金は、多くの水素を吸蔵できるので、電池の高容量化が可能になります。こういう結晶構造を作ることができれば、今よりも多くの水素を吸蔵できるだろうというイメージはありましたが、実際にどういった元素の組み合わせでできるのかは見当がつきませんでした。何十種類もの合金を作っては失敗の繰り返し。ある時、いつもは捨ててしまう失敗作の合金の構造を確認してみたところ、自分が思い描いていた結晶構造が含まれていたのです。」

 まさに世紀の発見。この世には存在しなかった全く新しい結晶構造を持ち、より多くの水素を吸蔵できる新規La-Mg-Ni系水素吸蔵合金が生み出された瞬間だった。

 この新しい水素吸蔵合金を使用したニッケル水素電池は「エネループ」として製品化され、充電池やハイブリット自動車などに使われている。

開発したLa-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造。規則的な格子構造になっているため、水素原子を効率的に吸蔵できる。

ホテルで実現した
水素エネルギーシステムのモデル

 水素を作り、水素を貯蔵し、水素を運び、水素を使う。この一連の仕組みができあがれば、とても有効にエネルギー利用ができる。河野教授は、太陽電池などの再生可能エネルギーを活用した水素エネルギーシステムの構築と高性能化を目指している。

「水素吸蔵合金を活用した水素エネルギーシステムで電力の完全自給自足ができるホテルが、2016年に長崎県のハウステンボスで実現しました。太陽光での発電量の多い春夏に水素を製造して貯蔵し、日照が弱くなった秋冬に水素を取り出して電力を得ることもできます。」と語る河野教授。

 現在はホテル1棟12室分だが、再生可能エネルギーと水素エネルギーだけでホテルの1棟まるごとの電気と温水を年間を通して供給することができる。これにより、ホテル内の必要な電力や客室の温水などを、環境に配慮した形で提供できている。

 さらに、自立型のエネルギー供給システムであるため、災害時でも電力や温水を提供できることが強みだ。水素吸蔵合金タンクは通常の水素ガスタンクよりも約1/10に小型化、蓄電池よりも安価なコストで製作できるという。

 「再生可能エネルギーと水素エネルギーをうまく組み合わせたハイブリッドシステム。エネルギーの確保や地球温暖化などの問題が深刻化しているわが国において、課題解決の切り札となると考えています。」

新しい社会システムの
構築を目指して

 河野教授のモチベーションはどこから来るのだろうか。

 「以前、小さな島に行った時に気づいたことがきっかけになっています。島内の電力の大半はディーゼル発電によってまかなわれていますが、台風が直撃すると停電し、本島からの船便もストップするため、発電に必要な燃料もすぐに底をついてしまいます。日常生活もままならない状況が一週間以上も続くことを知った時はとてもショックでした。離島の人達やエネルギー状況が厳しい地域の方も安心して暮らせるように、水素エネルギーによるハイブリッドシステムをできるだけ早く確立したいと思っています。それが今の私の原動力になっています。」

 この小さな島に象徴される状況を改善していきたい。この強い想いで、河野教授は水素吸蔵合金を活用した理想的な水素エネルギーシステムを構築し、太陽と水さえあれば電気を完全自給自足できる社会を作っていきたいという。

 「化石燃料への依存を無くして、再生可能エネルギーの自給率を高めることができれば、産業振興や、地域の自立にもつながります。『水素』を通して新しい時代の社会システムの構築を目指していきたいと思っています。」 

 河野教授の「水素」の可能性を基盤にした取り組みは、これからも続いていく。

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